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ブックマーク / realsound.jp (53)

  • 宮台真司×荘子it『崩壊を加速させよ』対談 「社会という荒野を仲間と生きる」

    社会学者・宮台真司の映画批評集『崩壊を加速させよ 「社会」が沈んで「世界」が浮上する』の刊行を記念して5月29日に行われた、宮台真司とHip HopクルーDos Monosのトラックメイカー/ラッパーである荘子itのトークイベント。イベントが初対面となった宮台と荘子itだが、その後のやりとりを経て、今回は宮台、荘子it両氏がそれぞれ加筆した原稿を対談形式にて掲載する。 イベントでのトーク内容に加えて、宮台のキリスト教的価値観や作品における「軽さ」の重要性をより詳細に記述、2人が模索する現代の批評のあり方、ひいては社会への向き合い方をより深く知ることができる内容となっている。 体験質パターンの引き出しをベースにした批評の形式 宮台真司(以下、宮台):はじめまして。荘子itさんが今27歳で、僕が62歳だから、下手したら僕の孫でも不思議はないくらいの世代ですね(笑)。 荘子it:うちの親と同じ

    宮台真司×荘子it『崩壊を加速させよ』対談 「社会という荒野を仲間と生きる」
  • 菊地成孔の『ラ・ラ・ランド』評:世界中を敵に回す覚悟で平然と言うが、こんなもん全然大したことないね

    *以下のテキストは、 マスメディアがアカデミー賞レースの報道を一斉に始める前の、2月20日に入稿、更に4日前に書かれたもので、つまり所謂 「あとだしジャンケン」ではない旨、冒頭に強調しておく。 今時これほど手放しで褒められてる映画があるだろうか? 当連載は、英語圏の作品を扱わないので今回は<特別編>となる。筆者は映画評論家として3流だと思うが、作は、複数のメディアから批評の依頼があった。大人気である。「全く褒められませんよ」「こんな映画にヒーヒー言ってるバカにいやがられるだけの原稿しか書けませんけど」と固辞しても、どうしても書けという。 そりゃあそうだ。筆者は一度だけヤフーニュースのトップページに名前が出たことがある。ジャズの名門インパルス!レーベルと、米国人以外で初めて契約したから? 違う。女優の菊地凛子を歌手デビューさせたから? 違う。正解は「『セッション』を自分のブログで酷評したか

    菊地成孔の『ラ・ラ・ランド』評:世界中を敵に回す覚悟で平然と言うが、こんなもん全然大したことないね
  • 荘子itによる批評連載スタート 第1回:『Mank/マンク』から“名が持つ力“を考える

    0.荘子itは電気蝶の夢から覚めるがーーー 令和/映画の起床/批評 判で押したような「覚醒せよ」に、どれだけの意味があるのか。令和の時代にラッパー/トラックメイカーとして表現をし、そして今ここで映画の批評を始めようとしている荘子itにとって、それが問題である。 よしんば今こそ覚醒が必要であるとしても、それを直接的に言ってみせることを、徹底的に疑い抜く表現者や批評家が、もっといてもよいのではないか。荘子itはラッパーとして、耳に心地よいだけのアフォリズムやパンチラインやハッシュタグの怠惰さに敏感であるよう努めてきた。 現在、芸術や文化が立たされている危機とは、人々がそれを求めないことにあるのではなく、むしろ、誰もがそれを渇望していて、しかも、常にすぐそこにあるにも関わらず、その当の姿を直視し、心から信じることはできないまま、「でもこれがそれだよね?」、と目配せし合いながら、担ぎ上げ温存して

    荘子itによる批評連載スタート 第1回:『Mank/マンク』から“名が持つ力“を考える
  • アニメ『プラネテス』は一生の財産にもなりうる作品だ Eテレでの再放送開始に寄せて

    テレビアニメ『プラネテス』がNHK Eテレにて1月9日より、毎週日曜19時から再放送される。今でもアニメファンから絶賛の声が寄せられ、名作と呼び声高い作品が全国に再放送されることは、放送時から毎週楽しみにしていたファンである筆者としてもとても喜ばしい。今回は『プラネテス』が高く評価される理由について簡単に紹介していきたい。 『プラネテス』は、幸村誠による1999年から2004年にかけて連載された全4巻の同名の漫画作品が原作。2003年にテレビアニメとしてが放送された。監督は『スクライド』や、今作の後に『コードギアス 反逆のルルーシュ』や、また2022年には『ONE PIECE FILM RED』の監督を務めることも発表されている谷口悟朗が務めている。制作スタジオはガンダムなどのロボットアクションの印象も強いサンライズが務めており、ロボットバトルのない作品の制作を担当したことも話題を集めた

    アニメ『プラネテス』は一生の財産にもなりうる作品だ Eテレでの再放送開始に寄せて
  • シティポップ(再)入門:寺尾聰『Reflections』 “奇跡の年”に生まれた名実ともにシティポップの頂点

    国内で生まれた“シティポップ”と呼ばれる音楽が世界的に注目を集めるようになって久しい。それぞれの作品が評価されたり、認知されるまでの過程は千差万別だ。特に楽曲単位で言えば、カバーバージョンが大量に生まれミーム化するといったインターネットカルチャー特有の広がり方で再評価されるケースが次々登場している。オリジナル作品にたどり着かずとも曲を楽しむことが可能となったことで、それらがどのようなバックボーンを持ち、どのようにして世に生み出されたのかといった情報があまり知られていない場合も少なくない。 そこで、リアルサウンドではライター栗斉氏による連載『シティポップ(再)入門』をスタートした。当時の状況を紐解きつつ、それぞれの作品がなぜ名曲・名盤となったのかを今一度掘り下げていく企画だ。毎回1曲及びその曲が収められているアルバムを取り上げ、歴史的な事実のみならず聴きどころについても丁寧にレビュー。

    シティポップ(再)入門:寺尾聰『Reflections』 “奇跡の年”に生まれた名実ともにシティポップの頂点
  • シティポップ(再)入門:山下達郎『FOR YOU』 揺るぎない最高傑作、シティポップのアイコンとして位置づけられる所以

    シティポップ(再)入門:山下達郎『FOR YOU』 揺るぎない最高傑作、シティポップのアイコンとして位置づけられる所以 日国内で生まれた“シティポップ”と呼ばれる音楽が世界的に注目を集めるようになって久しい。それぞれの作品が評価されたり、認知されるまでの過程は千差万別だ。特に楽曲単位で言えば、カバーバージョンが大量に生まれミーム化するといったインターネットカルチャー特有の広がり方で再評価されるケースが次々登場している。オリジナル作品にたどり着かずとも曲を楽しむことが可能となったことで、それらがどのようなバックボーンを持ち、どのようにして世に生み出されたのかといった情報があまり知られていない場合も少なくない。 そこで、リアルサウンドではライター栗斉氏による連載『シティポップ(再)入門』をスタートした。当時の状況を紐解きつつ、それぞれの作品がなぜ名曲・名盤となったのかを今一度掘り下げていく

    シティポップ(再)入門:山下達郎『FOR YOU』 揺るぎない最高傑作、シティポップのアイコンとして位置づけられる所以
  • 『夏への扉』と『Arc』、いずれも大苦戦 日本の実写SF作品は求められていないのか?

    先週末の動員ランキングは、『ザ・ファブル 殺さない殺し屋』(松竹)が土日2日間で動員12万9000人、興収1億8300万円をあげて2週連続で1位となった。6月28日までの10日間の累計動員は50万9000人、累計興収6億9934万1570円。 初週は初登場4位と奮わなかったが、地味に健闘を見せているのが先週に続いてトップ3にランクインしている『キャラクター』だ。こちらは6月28日までの17日間の累計動員が65万6758人、累計興収が9億1682万7130円。主演作として前作にあたる『花束みたいな恋をした』の大ヒット(累計興収38億円突破)は言うまでもなく、パンデミック期に入ってからの主演作としては、公開延期を経て昨年8月に公開された『糸』(最終興収22.4億円)も隠れた大ヒット。今回の『キャラクター』も10億円超えは確実で、「映画館に客を呼べる役者」としての菅田将暉神話は健在だ。 さて、先

    『夏への扉』と『Arc』、いずれも大苦戦 日本の実写SF作品は求められていないのか?
  • 室町時代の日本人はめちゃくちゃ荒っぽかった? 明大教授が語る、ハードボイルドな日本人像

    清水克行の歴史エッセイ『室町は今日もハードボイルド』(新潮社)に取りあげられている中世の日人は、現代の日人像からあまりにかけ離れている。まるで、マンガ『北斗の拳』や映画『マッドマックス』のような世界観のようにもみえる。 農民が武器を手に隣村と戦(いくさ)をしたり、行きかう船から通行料をせしめる「賊」が横行していたり。家族のなかでも、人身売買で人が財産として扱われたり、夫の浮気相手をが仲間を引き連れて襲撃したり。室町時代(1336年〜1493年)の日人は、とかく荒っぽかった。 彼らはなぜ、ハードボイルドだったのか。なにゆえアナーキーでアウトローな生き方をしていたのだろうか。歴史学者で明治大学教授でもある著者に話を聞いた。(土井大輔) 「武士道」からも現代の価値観からもかけ離れた行動 ーー室町時代の人たちには、どのような面白みがあると考えていますか? 清水克行(以下、清水):たとえば、

    室町時代の日本人はめちゃくちゃ荒っぽかった? 明大教授が語る、ハードボイルドな日本人像
  • 『エヴァンゲリオン』を実写パートから考える 旧劇場版と新劇場版の“虚構”と“現実”

    稿は『シン・エヴァンゲリオン劇場版』と『新世紀エヴァンゲリオン劇場版 Air/まごころを君に』の内容、いわゆるネタバレに触れております。ご了承ください。 『シン・エヴァンゲリオン劇場版』が公開された今、改めて2006年に庵野秀明総監督が書いた『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』所信表明を読むと、その志がぶれていないことに驚く。特に目を引くのが「「エヴァンゲリオン」という映像作品は、様々な願いで作られています。(中略)現実世界で生きていく心の強さを持ち続けたい、という願い。」の部分だ。 その前年に刊行された漫画『監督不行届』の解説で庵野は、著者であり自身のでもある安野モヨコの作風を「マンガを読んで現実に還る時に読者の中にエネルギーが残るようなマンガ(中略)『エヴァ』で自分が最後までできなかったこと」と評している。 作品という虚構から現実世界に還り、そこで生きていく強さ。 テレビシリーズおよびそ

    『エヴァンゲリオン』を実写パートから考える 旧劇場版と新劇場版の“虚構”と“現実”
  • 宮台真司インタビュー:『崩壊を加速させよ』で映画批評の新たな試みに至るまで

    社会学者・宮台真司がリアルサウンド映画部にて連載中の『宮台真司の月刊映画時評』などに掲載した映画評に大幅な加筆・再構成を行い、書籍化した映画批評集『崩壊を加速させよ 「社会」が沈んで「世界」が浮上する』が、リアルサウンド運営元のblueprintより刊行された。同書では、『寝ても覚めても』、『万引き家族』、『A GHOST STORY/ア・ゴースト・ストーリー』、Netflixオリジナルシリーズ『呪怨・呪いの家』など、2011年から2020年に公開・配信された作品を中心に取り上げながら、コロナ禍における「社会の自明性の崩壊」を見通す評論集となっている。 このたびリアルサウンド映画部では、著書の宮台真司にインタビューを行った。前作『正義から享楽へ』発表直後に誕生した米トランプ政権に対する評価から、「存在論的転回の再考」に至った学問的経緯、さらに映画批評へと格復帰を果たすまでの思想的変遷につ

    宮台真司インタビュー:『崩壊を加速させよ』で映画批評の新たな試みに至るまで
  • 【ネタバレ】『エヴァ』は本当に終わったのか 『シン・エヴァンゲリオン劇場版』徹底考察

    稿には、『シン・エヴァンゲリオン劇場版』の結末を含む内容への言及があります。 2007年からシリーズの公開が始まった、『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』。その4作目にして、シリーズ最終作となったのが、タイトルを一新した『シン・エヴァンゲリオン劇場版』だ。TVアニメ版『新世紀エヴァンゲリオン』、旧劇場版を経て、再び出発したシリーズが14年の長期に渡って公開され、前作から8年と数カ月を経て最終作が公開されたというのは、異例づくめといえる出来事だ。このような新シリーズのスケジュールは、庵野秀明監督はじめ作り手側にとっても予想していなかったはずだが、それでも成立してしまうというのは、『エヴァ』全体の熱狂的な人気があってこそだ。製作が長引き延期を重ねながらも、シリーズの興行成績は落ちるどころか、右肩上がりになっていった。 さらに、公開前に発表された「さらば、全てのエヴァンゲリオン。」という、最終作と

    【ネタバレ】『エヴァ』は本当に終わったのか 『シン・エヴァンゲリオン劇場版』徹底考察
  • 『鬼滅の刃』はなぜ「完結」したのか 物語の続け方/終わらせ方を考える

    どうしたら『鬼滅の刃』の連載は続くのか? ジャンプ誌でクライマックスを迎えようとしていた2020年の春頃は、ネット上でそんな妄想やネタがよく繰り広げられていた。 特に比較されやすかったのが、「吸血鬼(鬼)退治」や呼吸法など、多くの共通点の見付かる『ジョジョの奇妙な冒険』の第1~2部だった。確かに「ボスキャラ交代」や「主人公交代」を利用した作品寿命の延長は、『DRAGON BALL』と並んで少年漫画の王道であるようにも思える。 主人公と敵勢力の交代が行われた『ジョジョの奇妙な冒険』5巻 連載中は「鬼舞辻無惨がラスボスで終了」なのかすら読者には判断不可能だったが、結果として2020年5月に最終話が掲載。ジャンプ漫画としては完結するのが早かった……というイメージが独り歩きしがちかもしれないが、ちょうど23巻で大団円を迎えたジャンプ作品なら『封神演義』(96年~)や『ヒカルの碁』(99年~)、『

    『鬼滅の刃』はなぜ「完結」したのか 物語の続け方/終わらせ方を考える
  • 『TENET』エリザベス・デビッキらオーストラリア出身俳優台頭のワケ ハリウッドとの関係も深い!?

    でも大ヒット中のクリストファー・ノーラン監督の最新作『TENET テネット』で、ひときわ鮮烈な印象を放っているのがキャット役を演じたエリザベス・デビッキだ。女性キャラクターの描き込みに賛否があるノーラン作品といえども、主演のジョン・デヴィッド・ワシントンやロバート・パティンソン、そして夫役であるケネス・ブラナーらの“お飾り”になることは決してなく、191cmの高身長から放たれる圧倒的な存在感で見事なまでに観客の視線を独り占めしている。 そんなデビッキのフィルモグラフィを遡ってみれば、バズ・ラーマン監督が手がけた『華麗なるギャツビー』やガイ・リッチー監督の『コードネーム U.N.C.L.E.』、さらにはMCUの『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス』、日では未公開でソフトスルーになったスティーヴ・マックイーン監督の『ロスト・マネー 偽りの報酬』と、すでに一線級の活躍をしている

    『TENET』エリザベス・デビッキらオーストラリア出身俳優台頭のワケ ハリウッドとの関係も深い!?
  • 宮台真司の『A GHOST STORY』評(前編):『アンチクライスト』に繋がる<森>の映画|Real Sound|リアルサウンド 映画部

    物語よりも世界観をモチーフとした映画群 『A GHOST STORY/ア・ゴースト・ストーリー』は良い作品です。極めて低予算なのに1年以上前から全米で話題が沸騰していたのが理由で日でも11月からの公開が決まり、見られるようになりました。素晴らしい作品なのに、日では半分以上の観客が分からなかったという感想を抱いて帰ると聞きます。残念すぎるので、作品をちゃんと感じて貰えるための準備をします。 今世紀に入って見られるようになった良作の多くに共通するのは、ストーリーより、モチーフが醸し出す世界観cosmologyにポイントがあることです。物語を追うと起承転結が見えづらく、どこでカタルシスを得られるのか判らなくなりがちです。ちなみに世界観とは「<世界>(あらゆる全体)はそもそもこうなっている」という存在論的ontologicalな理解です(暫く<世界>を世界と記す)。 世界観は寓意allegor

    宮台真司の『A GHOST STORY』評(前編):『アンチクライスト』に繋がる<森>の映画|Real Sound|リアルサウンド 映画部
  • 『マイ・ブロークン・マリコ』で注目の漫画家・平庫ワカ、初インタビュー 「この作品を描いて本当に報われた」

    『マイ・ブロークン・マリコ』で注目の漫画家・平庫ワカ、初インタビュー 「この作品を描いて当に報われた」 2019年、『COMIC BRIDGE online』(KADOKAWA)で連載された平庫ワカの『マイ・ブロークン・マリコ』は、全4回の連載が更新されるたびにトレンド入りし、今年1月に出た単行も発売即重版が決定、いまなお売れ続けている。同作は、自ら命を絶った親友イカガワマリコの遺骨とともに海をめざすOLシイノトモヨの旅を描いたロードムービー風の傑作だが、その作者である平庫ワカという新人漫画家がいったい何者なのか、現時点ではまだあまり多くの情報は公開されていない。そこで今回、この『マイ・ブロークン・マリコ』が誕生するまでのいきさつをはじめ、これまで目にしてきた漫画映画、好きな音楽についてなど、ファンなら誰もが知りたいようなことを平庫ワカ人に語ってもらった。なお、今回のインタビューが

    『マイ・ブロークン・マリコ』で注目の漫画家・平庫ワカ、初インタビュー 「この作品を描いて本当に報われた」
  • 知る人ぞ知る状態になってしまっている「Netflix映画の劇場公開」問題を考える

    先週末の映画動員ランキングは、『ターミネーター:ニュー・フェイト』が引き続き好調を維持し、土日2日間に動員20万5000人、興収3憶円を記録。11月17日(日)までの10日間の累計では動員95万人、興収13億円となっている。トップ10の顔ぶれは8位に初登場した『エンド・オブ・ステイツ』以外は変動なし。今年最大級の爆発的動員が予想される『アナと雪の女王2』の公開(11月22日)直前ということもあって、嵐の前の静けさといったところか。 今回は、先週末の11月15日(金)から全国の一部劇場で公開されたマーティン・スコセッシ監督&ロバート・デ・ニーロ主演作『アイリッシュマン』をはじめとする、Netflix映画の日での劇場公開について考えたい。日の一般劇場でのNetflix映画の公開は、今年3月9日に公開された『ROMA/ローマ』が先駆け。もっとも、『ROMA/ローマ』の際は「アカデミー賞で監督

    知る人ぞ知る状態になってしまっている「Netflix映画の劇場公開」問題を考える
  • 荻野洋一の『ブラックパンサー』評:普通の映画であることによって革命的作品に 

    この映画にはメッセージはない。あるとすればただひとつ、「われは黒人」という一点が身体言語によって執拗にくり返されている。アメリカ製のアメコミ映画であるにもかかわらず、アメリカ人はひとりしか出てこず、CIAエージェントであるこの男にしても、ごく補助的、後見人的な役割しか演じようとしない。あたかも今はもうそうでなければならないと心得ているかのように。『ブラックパンサー』はアフリカの架空の国ワカンダの物語である。「ヴィブラニウム」なる鉱石の恩恵を受けて高度な文明を築きつつも、「ヴィブラニウム」の拡散を恐れ、隠匿的な国家体制を採ってきた。 作は2月に全米で公開されるやいなや、黒人若年層を中心に熱狂的に迎えられ、映画史上歴代5位の驚異的な興行成績を叩き出しているそうだが、その理由はあきらかだ。つまりこれが単に黒人初の格的スーパーヒーロー映画であるばかりでなく、これが差別や抑圧、貧困から切断された

    荻野洋一の『ブラックパンサー』評:普通の映画であることによって革命的作品に 
  • 人生なんて88分もあればじゅうぶんだーー『COLD WAR あの歌、2つの心』が描く愛と絶望

    わずか88分の上映時間のうちに、悠遠たる人生の有為転変が、まるごと入っている。私たちは決して長くはない時間を劇場の暗闇で過ごし、あるカップルの愛と生と性、そのすべてを味わい、激しくぶつけられ、暗闇が暗闇でなくなった時、現実の時間感覚を取り戻すのに少し苦労するだろう。 タイトルは『COLD WAR あの歌、2つの心』。監督は、前作『イーダ』(2013)でアカデミー外国語作品賞を受賞し、日公開時も非常に好評を博したポーランドの映画作家パヴェウ・パヴリコフスキ。すでに61歳となっているが、1990年代にはイギリスでテレビドキュメンタリーの仕事に従事していたそうだから、映画作家としては新鋭として考えてもいい存在だ。その『イーダ』の好評から次回作の発表まで5年も要してしまったのはいかにも惜しいことだが、その間パヴリコフスキは、激しい恋愛でクッツイタリ離レタリをくり返した両親の生涯を映画化しようと、

    人生なんて88分もあればじゅうぶんだーー『COLD WAR あの歌、2つの心』が描く愛と絶望
  • 菊地成孔の『シェイプ・オヴ・ウォーター』評:ヴァリネラビリティを反転し、萌えを普遍的な愛に昇華した、見事なまでの「オタクのレコンキスタ」は、本当にそれでいいのか?

    菊地成孔の『シェイプ・オヴ・ウォーター』評:ヴァリネラビリティを反転し、萌えを普遍的な愛に昇華した、見事なまでの「オタクのレコンキスタ」は、当にそれでいいのか? オタクに市民権を!(いつの叫びだ) 特に監督と音楽が際立って素晴らしい作は、ゴールデングローブ(以下GGA)と米国アカデミー(以下AA)の双方に於いて綺麗なまでに監督賞と作曲賞を受賞しているが(両賞が映画における最高権威とは全く思わないが(菊地成孔の『スリー・ビルボード』評:脱ハリウッドとしての劇作。という系譜の最新作 「関係国の人間が描く合衆国」というスタイルは定着するか?)、北米における映画産業内政治、並びに、それでも動かすことができない、政治力を超えた力のあり方を明確に示す、という点に於いて、合衆国観察という点で重要な2トップであることは間違いない)、アレクサンドル・デスプラ(56歳)が、現代の超ミッシェル・ルグラン(8

    菊地成孔の『シェイプ・オヴ・ウォーター』評:ヴァリネラビリティを反転し、萌えを普遍的な愛に昇華した、見事なまでの「オタクのレコンキスタ」は、本当にそれでいいのか?
  • 新たな“現代西部劇”創出の予感 『ウインド・リバー』が描く苦痛に満ちた西部史

    『ウインド・リバー』というきわめて地味な、だが孤高の美しさと悲しみをたたえたこの聡明なアメリカ映画は、現代にはたして西部劇は成立可能なのかについて、大きな問いを投げかける。そしてワイオミング州のネイティヴアメリカン保留地ウインド・リバーを舞台とする犯罪ミステリーでありつつ、現代においても西部劇は成立するのだと無言のうちに宣言する。いや、今日にふさわしい「現代西部劇」の樹立を宣言しているのだ。そして皮肉なことに、ワイオミングという辺境の州は、マイケル・チミノ監督『天国の門』(1980)の舞台となった土地ーーつまりその超大作の興行的失敗をもって、アメリカ映画史において事実上、西部劇が滅んだ不吉な土地ーーなのである。 周知のごとく、アメリカ合衆国史はインディアン(ネイティヴアメリカン)討伐の歴史であり、土地簒奪の歴史だ。映画ジャンルとしての西部劇は、開拓時代を題材とする壮烈かつ勧善懲悪の時代活劇

    新たな“現代西部劇”創出の予感 『ウインド・リバー』が描く苦痛に満ちた西部史