これは凡ゆる小説にいえることだが、あるキャラクターが作中で一番最初に一体どんな行動をとったか、ということは、決して読み流してはならない小説読解の重要ポイントだ。というのも、その行動如何でキャラクターの第一印象が決定してしまうからだ。舞城王太郎『阿修羅ガール』(新潮文庫、2005)の場合、それは余り親しくもないクラスメイトとのセックスであり、とりわけ「顔射」されることに激怒することだった。顔射に怒る少女、これが本書主人公の第一印象である。 「ボケーッとしたままだったら、あのまま佐野の汚らしい精子が私の顔に襲い掛かっていただろう。そうなったら、私の自尊心はもう二度と取り戻しようのない手の届かない遠くの暗闇の一番暗くて冷たくて淋しい場所に音もなく落ちて沈んで細切れのズタボロになってとうとう消滅してしまっていたに違いない」(12p)