鹿島田真希さんの小説は、以前『六〇〇〇度の愛』を読んだことがある(2005-08-20)。その少し前に私は、こうの史代の漫画『夕凪の街 桜の国』を読んで、改めて広島・長崎への原爆投下とその記憶というテーマに関心を持つようになっていた。『六〇〇〇度の愛』は、一見「原爆の街・長崎を舞台とする恋愛小説」というフレームを借りて書かれているようにみえるので、その点からも興味があったが、実際にはこの小説は、「原爆でも長崎でも、そもそも恋愛ですらない」テーマと取り組んでいるという当惑や疑念を覚えさせるものだった。だが、私にはむしろそれが作者固有のテーマを導くための序詞のように思えて、この作者が抱える「語りえない謎」の深さのようなものを感じたのだった。 ある意味で、『冥土めぐり』は、『六〇〇〇度の愛』の謎の種明かしのように思えるところがある。たとえば『六〇〇〇度の愛』には、かつて自殺したアルコール依存症