大村陽子は1956年生まれ。1987年「形成」入会。1991年に「さびしい男この指とまれ」で第2回歌壇賞を受賞し、1993年に第1歌集「砂はこぼれて」を刊行した。 大村の歌の特徴は、きらめくような詩的センスの中に巧みに毒を混ぜてくるところにある。世界を見る視点がつねにどこか歪みを持っている。決して世界を肯定しない。そんな態度が見え隠れする。 パラソルをさして見てゐる海面の無数の擦過傷のかがやき ここに来て触れてと誘ふ地下鉄のレールはほそき銀のくちなは 処女が着るために売られてゐるやうなガラスケースの白いブラウス 誰にでもこの腹を貸してあげますとコインロッカーが並んでをりぬ ランニングシャツを脱ぎゆく少年のアクセサリーのやうなる乳首 ひろげたるフォトグラフィーの砂漠から砂がわが膝にこぼれはじめぬ 少年の睫毛ひき抜く手応へを知りたし花の蘂(しべ)をひき抜く なきわめくツクツクボウシつくづくとわ