2019年12月7日のブックマーク (5件)

  • 『湖畔の愛』(新潮社) - 著者:町田 康 - 都甲 幸治による書評 | 好きな書評家、読ませる書評。ALL REVIEWS

    著者:町田 康出版社:新潮社装丁:単行(252ページ)発売日:2018-03-22 ISBN-10:4104215031 ISBN-13:978-4104215034 気の遊びで、言葉に魂をこの世でいちばん大事なのは正直であることだ、と言われて否定する人はいない。だがどうだ。金持ちは力を振るい、美人は得をし、きれいごとを口にする人で世の中は満ちている。けしからんではないか。九界湖の畔(ほとり)にたたずむリゾートホテルが舞台の書で、町田康が導入するのは吉新喜劇の形式だ。 たとえば雑誌ライターの赤岩は「多様な価値観を認め合う共生社会」なんて言いながら、その実、自分の運さえ良くなればいいとばかり、隠された地元の神社を荒らそうとする。 彼女にとって言葉とは単なる道具だ。口当たりの良い言葉を吐く彼女のような人々に対抗するべく、様々な手法が駆使される。「カップル」は「カッポーレ」に横滑りし、「

    『湖畔の愛』(新潮社) - 著者:町田 康 - 都甲 幸治による書評 | 好きな書評家、読ませる書評。ALL REVIEWS
    amieparfum
    amieparfum 2019/12/07
    「本書の笑いの奥には、言葉に魂を取り戻したい町田の思いがある。そしてそれは我々の心を強くつかむ。」
  • 『ウィステリアと三人の女たち』(新潮社) - 著者:川上 未映子 - 都甲 幸治による書評 | 好きな書評家、読ませる書評。ALL REVIEWS

    著者:川上 未映子出版社:新潮社装丁:単行(177ページ)発売日:2018-03-30 ISBN-10:4103256257 ISBN-13:978-4103256250 回帰する傷ついた少女らの記憶自分がどういう人間かは自分がいちばんよく知っている。我々はふだん、そう思って生きている。けれども、その思いはいつか引き剥(は)がされてしまう。そして見知らぬ自分が顔を出す。 短編「彼女と彼女の記憶について」の主人公である女優もそうだ。田舎で開かれた同窓会に、十何年ぶりかで参加する。そして彼女は称賛を浴びるのだ。だがことはうまくは運ばない。元テニス部の女性に「いちおう女優って感じの人」とまで呼ばれてしまう。しかも黒沢こずえという、かつての親友が数年前に餓死していたことを知る。 実は主人公は小学生時代、こずえを裸にしては性的ないたずらを加えていた。だがそのときの記憶も含めて、こずえのことをすべて

    『ウィステリアと三人の女たち』(新潮社) - 著者:川上 未映子 - 都甲 幸治による書評 | 好きな書評家、読ませる書評。ALL REVIEWS
    amieparfum
    amieparfum 2019/12/07
    「読者は主人公たちとともに彼女の作品の世界を生きながら、自分の中で傷つき、うずくまっている少女を抱きしめられる。」
  • 『野蛮なアリスさん』(河出書房新社) - 著者:ファン・ジョンウン 翻訳:斎藤 真理子 - 都甲 幸治による書評 | 好きな書評家、読ませる書評。ALL REVIEWS

    著者:ファン・ジョンウン翻訳:斎藤 真理子出版社:河出書房新社装丁:単行(210ページ)発売日:2018-03-23 ISBN-10:4309207405 ISBN-13:978-4309207407 消えた町、戦争と暴力の記憶女装ホームレスのアリシアが、再開発で消え去った町、コモリを言葉で蘇らせる。そこに立ち現れるのは、いないことにされてきた人々の世界だ。 子供時代、朝鮮戦争で北から逃れてきた父親は孤児になり、この町で下男として雇われると、見下されながらもなんとか金を掴(つか)もうとする。成人してようやく家を手に入れ、立ち退きのための莫大な補償金をせしめても、家族の心は通いはしない。 勉強する機会も得られないまま親に殴られて育った母親は、アリシアと弟を激しくせっかんすることでしか、自分の感情を表現できない。耐えかねた兄弟が行政に助けを求めても、家族の和が大事だと言われて追い返されるだけ

    『野蛮なアリスさん』(河出書房新社) - 著者:ファン・ジョンウン 翻訳:斎藤 真理子 - 都甲 幸治による書評 | 好きな書評家、読ませる書評。ALL REVIEWS
    amieparfum
    amieparfum 2019/12/07
    「消えた町、戦争と暴力の記憶: 女装ホームレスのアリシアが、再開発で消え去った町、コモリを言葉で蘇らせる。そこに立ち現れるのは、いないことにされてきた人々の世界だ。」
  • 『日本人の恋びと』(河出書房新社) - 著者:イサベル・アジェンデ 翻訳:木村 裕美 - 都甲 幸治による書評 | 好きな書評家、読ませる書評。ALL REVIEWS

    著者:イサベル・アジェンデ翻訳:木村 裕美出版社:河出書房新社装丁:単行(ソフトカバー)(320ページ)発売日:2018-02-24 ISBN-10:4309207375 ISBN-13:978-4309207377 愚痴を言うな、人に頼るな。競争社会で勝つために、僕らはそう言われてきた。けれどもそれだけでは生きられない。人に触れ、優しさを与え合うことが必要なのだ。書はそのことを教えてくれる。 舞台はサンフランシスコの老人施設だ。東欧モルドバからの移民であるイリーナはここの職員になり、様々な老人たちに出会う。中でも惹きつけられたのは、テキスタイルのデザイナーである大金持ちのアルマだった。彼女の秘書として活動するうち、イリーナはアルマの大きな秘密を知る。 アルマは従兄のナタニエルと結婚していた。しかしそれと並行して、天才的な園芸家イチメイとの愛を半世紀以上にわたって育んでいたのだ。しかも

    『日本人の恋びと』(河出書房新社) - 著者:イサベル・アジェンデ 翻訳:木村 裕美 - 都甲 幸治による書評 | 好きな書評家、読ませる書評。ALL REVIEWS
    amieparfum
    amieparfum 2019/12/07
    「愛とユーモアでのんびり行くこと、二歩進んで一歩さがるダンス式に進んでいけばいい」
  • 『サリンジャー ――生涯91年の真実』(晶文社) - 著者:ケネス・スラウェンスキー 翻訳:田中 啓史 - 都甲 幸治による書評 | 好きな書評家、読ませる書評。ALL REVIEWS

    『キャッチャー・イン・ザ・ライ』によって全世界的に知られる作家となったサリンジャー。1965年に最後の作品を発表して以降、沈黙を守りつづけ、2010年に91年の生涯を閉じた。 書は死後初… 『キャッチャー・イン・ザ・ライ』によって全世界的に知られる作家となったサリンジャー。1965年に最後の作品を発表して以降、沈黙を守りつづけ、2010年に91年の生涯を閉じた。 書は死後初めてとなる伝記で、『ナイン・ストーリーズ』『フラニーとゾーイー』などの代表作をはじめ、単行未収録の初期短編や未発表作品まで網羅的に紹介。同時に、ノルマンディー上陸作戦での従軍体験、ウーナ・オニールとの恋と破局、最初の結婚、出版社やマスコミとの軋轢……謎につつまれた私生活を詳らかにしていく。 膨大な資料を渉猟し、緻密な追跡調査を行い、さまざまな新事実をあきらかにしたサリンジャー評伝の決定版! 我々はサリンジャーの何を

    『サリンジャー ――生涯91年の真実』(晶文社) - 著者:ケネス・スラウェンスキー 翻訳:田中 啓史 - 都甲 幸治による書評 | 好きな書評家、読ませる書評。ALL REVIEWS
    amieparfum
    amieparfum 2019/12/07
    ダッハウの強制収容所を解放…「焼ける人肉のにおいは、一生かかっても鼻からはなれない」という言葉からは、ただの素晴らしい青春小説にも思える彼の作品が、どれほどの闇を抱えているかがよくわかる。