誤解を恐れずに言えば、児童虐待はヒトの自然な行動の1つだ。虐待の原因は、いわゆる「現代社会の歪み」なるものではないし、加害者の精神病質でもない。だから虐待を犯した親の過去を調べても、さして実りある情報は得られないだろう。問題の立て方が逆なのだ。歴史をふり返れば、「なぜヒトは子供を虐待するのか」ではなく、「なぜ現代ではここまで虐待を減らすことができたのか」を問うべきである。ヒトは放っておけば、ごく自然に児童虐待を犯す。だからそれを止めるためには文明の力が必要なのだ――。 以上の250字にも満たない文章を読んだだけで、心穏やかではいられなくなる人がいるかもしれない。ヒトの心や行動には、進化の過程で身につけた一定の〝傾向〟がある。社会生物学や進化心理学などの学問分野では土台となる考え方だが、どうやら一部の人々はこの発想に激しい怒りと嫌悪を覚えるらしい。 社会生物学の〝開祖〟E.O.ウィルソンがこ