石巻市の内陸部にあった自宅は東日本大震災の激しい揺れで倒壊した。更地となった自宅跡地に寒風が舞う。 伊藤正和さん(59)は、この地にパン工房を構える。オープンは5月8日、60回目の誕生日にするつもりだ。 <接客のプロ> 「まさか自分がパン職人を目指そうとは思いも寄らなかった」 昨年の今ごろは、宮城県女川町にある旅館の支配人だった。町内のホテルでも支配人を務めた接客のプロ。 震災直後、旅館は住民300人以上を受け入れた。家族を亡くし、失意のどん底にいる人たちの避難生活を支えた。 3月末に解雇を言い渡された。公共職業安定所に通ったが、「求人はだいたい60歳まで。年齢がぎりぎりの私にまともな就職先はない」と諦めかけた。 職安通いも6回目を数えた昨年夏、1枚のパンフレットが目に入った。国の緊急人材育成支援事業として、パン職人の養成講座への参加を呼び掛けていた。 旅館業へ復帰する望みを