大正から昭和にかけての新たなる宗教や霊術、治療法や健康法をめぐる人々の中に、武術家たちをも見出すことができる。そのうちの二人はいずれも二十世紀末になって、安彦良和により、コミックの中に召喚され、主人公に寄り添う特異なキャラクター像を表出させ、強い印象を残す。その二人とは武田惣角と植芝盛平である。 武田は会津生まれの大東流合気柔術の祖とされ、生涯にわたって道場を持たず、全国を武者修行的に踏破し、武術家として多くの弟子に教授し、植芝は彼の高弟で、合気道の創始である。安彦は『王道の狗』(講談社、白泉社)において、明治中期の自由民権運動を背景に大阪事件などに関わり、北海道の監獄につながれ、脱獄し、アイヌに助けられた自由党員加納周助を、放浪の武術家武田惣角に弟子入りさせ、加納を「王道」へと進ませるイニシエーションならしめている。また同じく『虹色のトロツキー』(潮出版社、中公文庫、双葉社)にあっては、