2003年3月、東京モード学園を卒業すると、新緑の5月に甲 祐輔(かぶと・ゆうすけ)はフィレンツェにいた。本当はナポリに入りたかったのだが、知人から「ナポリは危険な街だ」と聞かされ、比較的治安の安定しているフィレンツェを選んだのだ。現地の語学学校に通いながら、小さな古都を散策する日々。漠然と服飾の仕事に就きたいと思っていながら、まだ何者になるのかもわからないまま時は過ぎる。夏のころ、転機は訪れた。 表通りから一本入ったその通りにある、以前から気になっていた店に足を踏み入れた。その店の名をリヴェラーノ・リヴェラーノという。既成服とテーラーが融合した日本でも名の通るフィレンツェの名店だが、甲はその名について深く知ってはいなかったようだ。ただその瀟洒(しょうしゃ)なたたずまいに、なんとなく心引かれたのだ。 それほど広くはない店内をぐるりと巡ると、思わず店員に「ここで働きたいのですが」と、甲は覚え
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