元ヤクザで俳優。メディアのコンプライアンスが厳しい現在、ちょっとありえないような肩書きだが、実際、安藤昇は戦後史に残るヤクザの組長の一人であり、引退後は堂々たる映画スターとして活躍していた。けっして、チョイ役で“特別出演”していただけで俳優を名乗っていたわけではない。 ここでは、今年5月に刊行された山口猛『映画俳優 安藤昇』(ワイズ出版映画文庫/単行本は2002年刊行)を元に、“安藤昇伝説”をあらためてまとめてみたいと思う。 20代半ばで500人を率い、渋谷を席巻した男・安藤昇 まずは略歴を簡単におさらいしておこう。安藤昇は1926年(大正15年)生まれ。戦中は特攻隊に配属され、過酷な訓練を受ける。除隊後、法政大学予科に入学するが中退。在学中からヤクザと抗争を繰り返していた安藤は、仲間たちと愚連隊を結成し、1952年(昭和27年)には渋谷に東興業の事務所を開いた。これがいわゆる「安藤組」で