父の腕に抱かれ、ハンカチで口元を押さえる少女。BC級戦犯としてフィリピンで死刑判決を受けながらも恩赦によって横浜港に帰還した元日本兵と、約10年ぶりに再会した子どもたちの写真が、1953年7月23日の本紙に載った。その少女、尾畑慶子さん(76)=旧姓前川、横浜市鶴見区=は「これで元に戻れる、と思いました」と当時の心境を振り返る。けれども、そこに母の姿はなかった。夫が戦死したとの誤報を信じて再婚していたからだ。市井の人の「戦争」は続いていた。 「私は覚えていないんですが、お葬式をしたと母から聞きました」と慶子さんは話す。終戦から2、3年後に父・前川治助さんの戦死公報が届いた。母の邦子さんは、生活を案じた近所の人の紹介で再婚した。2人の幼い弟は新潟の父方の実家に引き取られ、母は新しい父との間に妹と弟をもうけた。 治助さんがフィリピンの刑務所で健在だと分かると、邦子さんは煩悶(はんもん)した