こんにちはー、と言いながら部屋に入ると誰もいなかったので、部屋の隅の椅子の上の、猫がいつも居場所にしているところに向かう。いた。よく眠っている。眠っている猫の頭を撫でると猫は眠そうに目を少しだけ開けて、僕の顔を見て撫でているのが誰かを確認すると、ニャ、と短く小さく鳴いて、また目を閉じた。 これが昔だったらな、と思う。僕の足音を聞いただけで駆け寄ってきて、足元にまとわりつきながらニャーニャーニャーニャーとうっとうしいくらいに何かを訴えかけてきたのに。猫が最近明らかに昔より冷たくなっている。理由は簡単で、一緒に住まなくなったからだ。 前にこのシェアハウスに住んでいたときに猫を飼っていたのだけど、いろいろあって近くにある別の家に引っ越すことになって、そして新しい方の家がペット禁止だったので前の家に置いてきてしまったのだ。それは一時的な処置のつもりで猫と一緒に暮らせる物件にすぐ移る予定だったのだけ