シャルル・ボードレールの韻文詩集『悪の華』は、ニーチェの『ツァラトゥストラ』と同じく、キリスト教の『聖書』の知識がないと、なにが書かれているかを充分に読み説くことが難しい書物である。 韻 文 訳 悪 の 華 シャルル・ボードレール 平岡公彦訳 トップページ 聖書の物語は、欧米のキリスト教文化圏の人々にとっては一般教養というよりも常識と呼ぶのがふさわしい知識だろう。私たち非キリスト教国の国民でも、「創世記」におけるアダムとイブの物語や、『新約聖書』におけるイエスの誕生からゴルゴダの丘での刑死にいたる神話の大筋くらいはだれでも知っているはずだ。これまでの『悪の華』の解説も、読者も聖書の物語の大筋は知っているという前提で書いている。 『新約聖書』をもとにした作品として、ここまでの『悪の華』の詩作品のなかでいちばんわかりやすいのは、「祝福」の詩人の母親による神への呪詛だろう。 至高なる者の力能の命