頁に指がはりつく。読み出したら止まらない小説である。 舞台は韓国の東南アジアからの移民が集まって暮らす町からはじまる。 主人公ウォンギルは脱北者。北朝鮮から韓国へと逃げてきた人々だ。 異邦人の町でも、脱北者はとりわけ異邦人だった。 彼は夏に入って家具工場を解雇された。 「あの世に行かせたくないから辞めてもらうんだよ。まともに睡眠がとれるようになったらまた来いよ」 あえて不眠を理由にしなくても、首を切る理由は充分にあったろう。私は仕事熱心ではなかったし、熟練しようと努力したわけでもなかった。それでも解雇の理由として不眠を強調したのは、いつも私を気の毒に思ってくれていた社長だけに、解雇を告げるのがつらかったからだろう。 同じ脱北者である友人のヨンナムは、自給自足の生活を求めて、江原道に移住した。冬季オリンピックを誘致したその地で、選手村建設予定地から朝鮮戦争当時の民間人の遺骨が大量に出土した。
![[トピックス]脱北者とオリンピックをめぐる小説は、朝鮮半島の現実直視、本音全開。チョン・スチャン『羞恥』斎藤真理子訳 - みすず書房](https://cdn-ak-scissors.b.st-hatena.com/image/square/d291be63b37871f99ac0c5a353d5dc932af642b7/height=288;version=1;width=512/https%3A%2F%2Fwww.msz.co.jp%2F_wp%2Fwp-content%2Fuploads%2F2018%2F08%2F08716.jpg)