NHKの「BSドキュメンタリー」を新書にしたもの。NHKの番組は、多大な経費と時間をかけてつくっているという神話があるようだが、実際には一番コストのかかっている「NHKスペシャル」でも、予算は(人件費込みで)3000万円ぐらい、制作期間も3ヶ月ぐらいだ。だから、1本の番組を無理に書籍化すると、たいてい中身の薄いものになってしまう。本書も、番組としてはよくできていたのかもしれない(いくつか賞をとっている)が、本としては取材の苦労話が多く、やや冗漫だ。 とはいえ、事件のスケールは大きい。テーマは、ベル研究所で起きた物理学の論文の捏造事件で、犯人が書いた論文は、超伝導を実現する温度の世界記録を更新するものなど、5年間に63本。掲載誌のほとんどは"Science"や"Nature"を初めとする一流誌で、彼は31歳でマックスプランク固体物理学研究所の共同所長に内定し、ノーベル賞受賞が確実視されてい