著者: 稲田俊輔 提供した料理の数だけ、通った店の数だけ、そこには「お客さん」がいた――。ある時はレストランの店主として、ある時は自ら「お客さん」として飲食店に足を運び、そこに集うさまざまな人間模様を見聞してきた料理人による、本邦初の「お客さんエッセイ」。忘れられないお客さん、二度と会いたくないお客さん、そして自らはどのようなお客さんでありたいか――。飲食店を華やかに彩る「お客さん」たちの物語。 かれこれ20~30年も前、僕がいろんな飲食店を掛け持ちし次々とアルバイトに精を出していた頃、お店の裏ではお客さんのことを「客」と呼ぶのは割と当たり前でした。 「ウチの客は味の分からんやつばかりだ」 みたいなボヤキや悪口はもちろんですが、 「奥の卓のあの客、先週も来てくれてたよな」 「昨日はいい客ばっかりだったな」 みたいにそこに間違いなく愛情がこもっている場合でも、主語は「お客さん」ではなく「客」