旧制名古屋大学の工学部出身で、死亡した若山五朗の実兄である石岡繁雄は実験を繰り返し、1トン以上の抗張力がある直径8 mmナイロン製ロープが岩壁登攀時には常に存在する鋭角の岩角にかかり、人間の体重程度の重量で引っ張られると簡単に破断することを突き止めた。 一方、ロープメーカーの東京製綱は、大阪大学工学部教授で日本山岳会関西支部長の篠田軍治の指導により、1955年4月29日、同社蒲郡工場(愛知県蒲郡市)において、山岳関係者・新聞記者らの集まった中で公開実験を行った。実験前、篠田はロープの原糸メーカーの研究室での実験で、直径8 mmナイロン製ロープが直径12 mmのマニラアサ製ロープに比して鋭角の岩角では20分の1の強さしかないというデータを得て、石岡にも「ナイロンザイルは岩角で切断する。公開実験でもそうなるだろう」と言明した。しかし公開実験の際に、参観者には知らせずに90度の岩角に1 mm、4