2020年7月某日 チクリと明白な痛みを感じて、パチンと蚊を叩き落とした。 すでに吸っていたのであろう私の血と、散り散りになった黒い線が腕にこびりついていた。蚊の命と、壮大な物語のように語られる人の人生。文字通り虫も殺さぬ人でない限り、「どんな命も平等だ」なんて胸を張って言えるだろうか。言えたとしても、それは美しい自分でいたいがための保身なのではなかろうか。 ベッドに目をやると、猫のみいちゃんは枕の上で気持ちよさそうに眠っている。みいちゃんは食べてしまいたいくらいにかわいい。ときどき本当に、背中の肉を吸ったり、足の先を咥えては軽く噛んだりする。あたたかい足の先を咥えていると、昔絞めた鶏のことを思い出す。 数年前、狩猟に興味があり、知人のツテで猟の見学をさせてもらったことがある。ズドーン、ズドーン、と低く響き渡る銃声は腹を射抜くようで、撃ち抜かれるクマを思った。結果、その日は獲物を捕れなかっ