偏愛的漢詩電子帖 甘瓜を清泉に浮かべ、朱李を寒水に沈む。 ――曹丕「朝歌令呉質に与うる書」 川合康三 2020.04.20 疫病禍が収まらない。すでに三か月あまり、世界中が新型コロナウイルスに翻弄されている。暮らしが立ちゆかず、罹患者は増えるばかり。これがいつまで続くのか、誰にもわからない。 中国の疫病で文学史に関わるものといえば、建安二十二年(二一七)のそれがたぶん一番大きい。魏の文帝曹丕[そうひ]の「蓋し文章は経国の大業、不朽の盛事」という、文学の意義を高らかに宣言した言葉は、その時の流行病から生まれたといってもいいほどだ。 それに先立って、後漢という時代の全体を俯観すると、大まかに言えば外戚と宦官が交互に権力を奪い合う繰り返しであった。最後の外戚何進[かしん]を倒して支配者になったのが董卓[とうたく]。董卓打倒に向かって立ち上がったのが、袁紹[えんしょう]をはじめとする群雄