日本が中国に侵略戦争をおこなっていたかぎり、私たちは惰性的で無気力なものであったにせよ、抵抗意識をもちつづけてたのであった。……ところが、やがて戦争がヨーロッパに飛火し、それがふたたびアジアにかえって、日本が昭和十六年の暮についにあの絶望的な太平洋戦争のなかにとびこんでいくと、私たちは一夜のうちに自己麻痺にでもかかったかのように、抵抗意識をすてて、一種の聖戦意識にしがみついていった。 高杉一郎「『文芸』編集者として」(『文学』1958.4) 昨夜はNHKで放送されていた太平洋戦争の特集番組を観ました。昭和史の専門家というわけではないので内容の批評は控えますが、その中でくり返し「あの戦争では、日本人だけで310万人の方が亡くなりました」という言葉が出てきたのに対し、その「日本人」とは一体誰のことを指しているのだろう、ということをぼんやりと考えていました。 もちろん戦争体験について語ることは大