◇『占領期の朝日新聞と戦争責任--村山長挙と緒方竹虎』 (朝日選書・1470円) 第二次大戦が終わると、朝日新聞編集局長の細川隆元は一億団結と鼓吹してきた社論を「しかたのないこと」だったが、すぐに変えるのも何だから「まあだんだんに変えていくこと」にしようと言ったらしい。戦後の混乱期に、朝日新聞社も経営体である以上、GHQの意を迎えながらマスコミの役割を果たす上で多くの労苦を払った。創業者一族の村山長挙社長は終生、編集経営方針をめぐって主筆の緒方竹虎らの幹部社員と争った。社主として戦後の朝日に大きな勢威を振るう村山家は、労働運動と民主化の動きのなかで批判の対象になる。戦後社長となる渡邉誠毅が札幌に勤務中、治安維持法に触れて刑務所に三年収監された事実など、特異な昭和秘史としても貴重な証言である。(昌)