これまでローレンツの個体認識の考察からADHDの根本的な対人個体認識の障害について述べてきた。 同じ図式を用いて、ASの対人認識の障害について考えてみよう。 私がこれまで接してきたASの人の対人認識の特徴は、ADHDとはまるで逆で、「個体認識しかない」という表現になるだろう。「自分」と「相手」という形で抽象的にイメージ化することができない。あるいはうまく調節できないということになる。 私は80年代に私は京都大学で学び、哲学にも親しんでいたが、当時は「現象学」の全盛であった。 ハイデガーやブーバーの「Ich-Duの関係」と「Ich-Esの関係」という表現が個体認識のことを理解するのに役に立つかもしれない。 Ich-Duとは、一対一の「私とあなた」で、名前がある相手との一回限りの関係である。ローレンツの個体認識に相当すると私は考える。 対してIch-Esとは、「三人称」的に自分と相手を観察する