「いい映画なのにヒットしない」? まずはじめに、この新連載の企画意図を記しておこう。簡潔に書くと「新作映画の論評」ではあるのだが、ヒット作に限定してみよう、というものだ。 そもそも映画評というのは、たいてい公開の直前/直後に発表される。でも、あくまでもそれは、公開前に映画を観ることができる映画評論家など“特権階級”の評価にすぎない。「いい映画なのにヒットしない」といった愚痴が評論家や製作側からしばしば漏れ聞こえてくるように、お金を払って観に行く観客はシビアに評価したりもする。 しかし、単にそれは評論家と観客が断絶しているということでもない。イェール大学で日本映画史を教えるアーロン・ジェローは、歴史を参照したうえで日本の映画批評が「知識や実践の序列を通して自らを正当化し、そのために、とりわけ一見して(例えば、テレビの)様々な知識を必要とする世界に直面している今日の観客には、映画批評に頼る理由