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ブックマーク / sutekibungei.com (5)

  • 自己肯定感の話 ①

    もうずいぶん昔のことです。 当時、すでに八十歳を超えていた母方の祖母とふたりきりで、ロンドンを旅したことがあります。 何故そんなことになったかというと、ある年のお正月、皆で祖母宅に集まったとき、私がイギリスで過ごした日々の思い出話を親戚たちに求められたのです。 それで問われるままにあれこれ語っていたら、祖母が「一生に一度でいいからイギリスに行きたい。お姫様のような旅がしたい」と言い始め、それを聞いた伯父たちが、それなら資金を出すから私が連れていってはどうか、と言い出したのだったと思います。 高齢者というのはたいてい何かしら気難しいところがあるものですが、祖母も典型的な「プライドが高すぎるめんどくさい年寄り」であり、既にまあまあ認知症も進んでおり、扱いの大変さを知っている母や叔母は強く反対しました。 祖母が海外で体調を崩したりしたら大変、というのが反対の理由でしたが、今思えばむしろ、ひとりで

    自己肯定感の話 ①
    dominion525
    dominion525 2022/11/14
    全部読んだけどすごく面白かった。プロすごいな…。全編が山下和美の絵で再生されたけど「女王の帰還」(柳沢教授101話)のせいかなあ?
  • 自己肯定感の話 ⑭

    トップバッターであるサンドイッチがこのボリューム。 ならば、スコーンとケーキも、そんなに可愛らしいことにはならないのでは……? そんな私の不吉な予想は、数十分後に適中しました。 みんながサンドイッチを十分に堪能した頃、ウェイターたちが大きなバスケットと銀のトングを持って、再びテーブルを巡り始めます。 しばらく待つうちに、私たちのテーブルにも、担当のウェイター氏が快活な笑顔で戻ってきました。 「さあ、焼きたてのスコーンをお持ち致しましたよ!」 軽く身を屈めてバスケットを低い位置に保ち、恭しく保温用の布を取りのけて見せてくれたスコーンは、むくむくに膨らんで中央がぱっくり割れ、表面は淡いきつね色に焼けた、円筒形の正統派。 粉とバターの素朴な香りが、ふわっと鼻をくすぐります。 間違いなく、美味しい。 香りと見た目だけでそう確信できる、素晴らしい焼け具合です。 これ。これだよ。イギリスに来てべたい

    自己肯定感の話 ⑭
    dominion525
    dominion525 2022/11/14
    デジカメならネガはないのでは…?と思ってしまった。
  • 自己肯定感の話 ⑪

    「イギリスでお泊まりするのは、今日が最後だよ」 朝の席で私がそう言うと、祖母は優雅にミルクティーを飲みながら、「あら」と小首を傾げました。 どこで習ったものか、カップの持ち手に人差し指を通すのではなく、持ち手を親指、人差し指、中指で挟むように持っています。 うーん、ロイヤル! そんなところまで、「姫」になりきっているとは。 「もう、そんなにここで過ごしたかしら」 「過ごしましたよ」 「もう少しいてもいいように思うけれど。あと2、3日くらいなら延長しても、ねえ?」 「海外旅行の場合は、そう簡単に日程変更はできないよ。有馬温泉に来てるわけじゃないんだからさ。飛行機の手配とか……ほら、色々と」 私が払ってるわけじゃないけど、お金のこともあるからね! ここ、一泊いくらだとお思い? などという世知辛い台詞は、姫の手前、口にすべきではないでしょう。 曖昧な言いようで延泊を却下した私に、祖母は、「まあ

    自己肯定感の話 ⑪
    dominion525
    dominion525 2022/11/14
    「そんな風に、簡単に諦めてはいけません。でないと、僕が頑張る甲斐がないでしょう?」 「謝る必要はありません。ただ、『燃料』をくださればいいんです。」
  • 自己肯定感の話 ④

    今回の旅行の目的は、祖母姫にロンドンをめいっぱい楽しんでもらい、元気に帰国、いや、帰宅させること。 それはわかっていても、私だって、せっかくのロンドン、自分の時間がほしい! ロンドン在住の友人たちと会いたいし、一緒に遊びたい! でも、祖母が起きているうちは、一秒だって目が離せないことは、これまでの一連の経験で痛いほど理解しています。 ならば、祖母の就寝後、ホテルを抜け出すしかありません。 いや、抜け出さないと、私のメンタルが確実に死にます。 祖母を守るためには、まず私が自分を守らねば。 行こう。行っちゃえ! 後悔先に立たず、ならばゴー! 若さというのは恐ろしいもので、私はロンドン到着当日から、祖母に内緒の夜遊びを始めました。 さすがに、祖母が寝続けると聞いている6時間をフルに使うのはリスキー過ぎるので、私に許された自由時間は、おそらく4時間程度でしょう。1分たりとて無駄にするわけにはいきま

    自己肯定感の話 ④
    dominion525
    dominion525 2022/11/13
    “「ミス○○(私の本名です)、当ホテルのゲストでいらっしゃるからには、このロンドンで、ひとりぼっちで解決しなくてはならないことなど何ひとつありません。困ったことがあったら、必ずお電話を」”
  • 自己肯定感の話 ②

    すげえなファーストクラス! 語彙が最低限になる空間、それが旅客機のファーストクラスの座席でした。 もっとも、何十年も前の話です。 今みたいに完全に横になれる個室のようなゴージャス空間では、当時はありませんでした。 せいぜい、大きくて座り心地のいい座席がフルフラットになるよ、という程度。それでも、当時はずいぶんと贅沢なことでした。 何より凄かったのは、機内です。 私はアレです、あの四角いトレイに四角い器が細々と並べられ、バッサバサのパンとか、温め直しのときに縁のあたりでソースがガビガビに乾き、かたや添えられたご飯のほうはソースでブヨブヨになったメイン料理とか、クルクル巻かれた状態で固まっている茶蕎麦とか、小さくて四角くて甘すぎるねとねとしたケーキとか、密封されたちょっぴりの水とか、そういうエコノミー席の機内を心から愛しているのですが、ファーストクラスの事は、簡潔に言えば、ただの一流レス

    自己肯定感の話 ②
    dominion525
    dominion525 2022/11/13
    > 今も、あのCAさんには感謝しかなく、彼女を雇用していたというその一点で、私はこの先ずっと、日本航空への愛着と敬意を失うことはないと思います。 ずっと、彼女は私の尊敬する師のひとりです。
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