“マラリアと人との戦いが如何に壮絶なものであったかは、鎌形赤血球症の存在からもうかがえる。これはアフリカ黒人部族の一部、インド、ギリシャなどのマラリア生起率の高い地域で、住民のあいだにある割合でみられるもので、赤血球が変形して鎌形(三日月形)になり、血液は正常な機能を果たすことができなくて、その結果、ひどい貧血症状をひき起こし、人を死に至らしめることが多い病気である。 ところが、鎌形赤血球をもつ人はマラリアにかかる率が低い。鎌形赤血球の人は、あるアフリカ黒人部族では四〇%にも達しているという。この割合は、マラリアの猛威と貧血による死とのあいだのバランスで成り立っているものである。マラリアによる種族の絶滅を防ぐために、あえて貧血による死の危険を冒す進化の機構がはたらいている。”