“村山はトミコとこんな話をした。 「母さん、淀川で昨日人が溺れて死んだって新聞に出ていた」 「まあ」 「でも誰も助けにいかんかったそうじゃ」 「泳げる人がおらんかったんでしょう」 「母さんなぜそんなこと言うの?」 「えっ?」 「僕だったら助けに飛びこんだ」 「だって、聖泳げないでしょう」 「泳げなくても、僕は飛びこんだ」 「そんなことしても、助けることはできないんだから無意味よ。皆迷惑するだけじゃない」 「なぜ? そんなことを言って、結局は弱い者や困っている人を見殺しにするだけじゃないか。何だかんだいっても遠巻きに見ているだけで、大人は何もしない。でも僕は違う、僕はたとえ自分がどうなっても助けるために川に飛びこむよ」 トミコにとっては思ってもいなかった激しい論争となってしまった。トミコには息子の気持ちがわからないでもなかった。療養所ですごした少年時代の痛みを引きずりながら生きている息子のこ