第1話 デジタルをものにしてみせる 1971年、井深(当時社長)や、NHK出身ですでにソニーの常務になっていた島茂雄たちの誘いで、NHK(日本放送協会)の技術研究所長の職をやめて、中島平太郎(なかじま へいたろう)がソニーに入社した。中島は、設立されたばかりの技術研究所の所長に迎えられたのである。中島は、その4年前からNHKで細々と「音のデジタル化」に取り組み、2年がかりでデジタルオーディオテープレコーダーをつくり上げた男である。開発のきっかけは、本放送を目前に控えたFM 放送のための音質改善だった。それまで、コンピューターや電話の長距離伝送にしか使われていなかったデジタル技術を使って音を良くしようと考えた。電圧の連続的変化にした音の波形を、1秒間に数万回も区切って、各時点のレベルを数値化していく。これが音のデジタル化だ。実際に「デジタルサウンド」を実現したのはおそらく日本では彼が初めてだ