わたしの住むM町と隣のS町は常にライバル的存在だった。 たとえば、M町の児童公園はブランコ・滑り台・ジャングルジム・砂場・石碑、そしてほんとうのバス*1など遊具があり大きな二本のイチョウとはるにれの木があった。 一方、S町は猫の額という言葉がぴったりの公園だった。隣の寺がお昼過ぎにはと黒い影を落とす中、誰も遊ばないブランコがみっつ風に、いつも揺れているのだった。 しかしそんなS町が一年に一度だけM町より輝く瞬間があって、それは夏祭りのよるだった。S町は町内会費をやりくりして、芸能人を呼んだ。そのときばかりはM町住人たちもS町公園にいそいそと出かけずっとまえからS町住民みたいな顔をして芸能人を見るのだ。*2 その年は「てんのあかね」さんという演歌歌手が来た。 ・・・ *1:廃車の *2:もちろんわたしも・わたしの父も。