「前に話したかもしれないけどさ」 という前置きの後に続く話には、実際、前にどこかで聞いた感じがつきまとっている。 とはいえ、聞いているこっちに確たる記憶があるわけでもない。だから、 「そうか? はじめて聞くぞ」 と言ってやる。 と、相手は安心して続きを話し始めるわけなのだが、果たして、しばらく耳を傾けているうちに、以前聞いた話であることがはっきりしてくる。うん。前に聞いた。確かだ。二度目どころか三度目かもしれない。というよりも、オレが「はじめて聞くぞ」と言ってやってからこいつがこの話を繰り返す展開自体、前回とまるで同じだ。 かように、ある程度以上年齢の行った人間同士の会話には、常に同話反復のリスクが織り込まれている。われわれは、互いに、以前聞いた話である旨を指摘しないことで、双方の体面を防衛していたりする。 「前に話したかもしれないけどさ」 という、この前置きは、おそらく、話し手が、以前、
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