** 初めての絵本も、児童文学も、かつてお話のほとんどは三人称だった。文字通り、絵本や児童文学で、世界を傭放し、自分を外側から見ることを覚えていったように思う。 それに、私の印象では、かれこれ三十年も前は、一人称を使うのは、一人称を使うこと自体にお話の仕掛けがあるか、 かなり突っ張った、既成の大人社会への抵抗を示す場合のみだった。 だからこそ、サリンジャーの『ライ麦畑でつかまえて』や庄司薫が若者に熱狂的に受け入れられたのであり、今現在、村上春樹が世界で「青年の文学」として人気を博しているのだと思う。 そのいっぽうで、私は小説を書き始めたころから、一人称というものが言わば「禁じ手」のように感じられていた。 ――「一人称の罠」 ●土曜日は灰色の馬|恩田陸|晶文社|ISBN:9784794967510|2010年08月|評=○ <キャッチコピー> 小説家・恩田陸さん。汲めども尽きぬ物語の源泉はい