この小説の主人公である江分利満(知らない人のために一応書いておくが、「えぶりまん」と読む)は、著者である山口瞳自身であるとされている。実際、小説の中に出てくる江分利のプロフィールはほとんど本人そのままだ。だから、このことばは山口瞳自身の想いであると考えていいだろう。昭和元年生まれの戦中派、学生時代に徴兵された世代だ。 このフレーズが出てくる「昭和の日本人」という章は、この小説の中で他の部分とはあきらかに異なる印象を与える。軽妙な文体は相変わらずだが、憤りみたいなものがひしひしと伝わってくる。江分利が慶応のグラウンドでウィスキーを飲みながら思い出すのは、自分と同世代でありながら、太平洋戦争で命を落とした人々のこと、その人たちと過ごした昭和初期の「能天気」な日々のことだ。 江分利は昭和を代表する風俗、たとえばカルピスだとか大学野球だとかいったものに対して、「恥ずかしい」と感じる。なぜか。それは
