それを聞いたアンリは肩をそびやかして反論した。 「貴女様のような方にお仕えるのは気苦労が絶えず大変ですが、わたしは無能な人間は反吐が出るほど嫌いなので、公爵様からお暇を出されない限りはこの国で働かせていただくつもりでいます」 「それはおれへの追従か?」 「騎士らしく、敬意(オマージュ)を捧げさせていただいたつもりですが、お気に召さなければ撤回いたします。忌憚なく申しますが、わたしは、君主とは民を守り導く『父』であると教わってきて、いまもそうと信じています。貴女様が女性であられるのはわたしには不都合な事実ですが、だからといって貴女様が君主に相応しくないとは思っておりません。わたしは、そうした貴女様の許でこの国を豊かにし、侵略から守り、強くしたいだけです」 「おれは違う」 アンリは翡翠色の両目でその真意を探ろうとして、相手の顔をみつめた。 「アンリ、おれの目標はただこの国の安全や富だけではない
![第84話 エリス姫と騎士アンリ、そしてサルヴァトーレ - 歓びの野は死の色す(磯崎愛) - カクヨム](https://cdn-ak-scissors.b.st-hatena.com/image/square/2af05fd72c34e66c33e89a5352b7bc01c956da23/height=288;version=1;width=512/https%3A%2F%2Fcdn-static.kakuyomu.jp%2Fworks%2F16818023213150466704%2Fogimage.png%3FIHphIiToxvYN8U_FOXEerP0iIJ8)