『サド侯爵の呪い 伝説の手稿『ソドムの百二十日』がたどった数奇な運命』の発売を記念して、プロローグの試し読みを公開します。マルキ・ド・サドの問題作『ソドムの百二十日』の直筆原稿の行方、サドとその子孫の運命、直筆原稿市場にかかわる個性的な面々が織りなす、まるでミステリー小説か映画のような実話です。 プロローグ 塔の囚人 一七八五年十月二十二日 時は十八世紀末期のパリ、瓦ぶきの屋根の下へ日が沈む頃、バスティーユ監獄の自由の塔の独房で、ひとりの男が背を曲げ机におおいかぶさるようにして執筆を始めた。 ルイ十四世の御治世において盛んに行うしかなかった数々の大戦争は、国の財政と国民の財布を圧迫する一方、おびただしい数のヒルのような人間を潤していた事実をあぶり出した。彼らは世の災いを鎮めるどころか、刺激して利用してやろうと常に身を潜めて狙っている……ルイ十四世の時代が終焉(しゅうえん)に向かう頃……その