「ケインズが対象として考えている経済は、自分の力だけでは完全雇用を自動的に達することができず、放任すれば過少雇用の均衡状態に陥ってしまうような体質の経済であるから、かりに政策の処方を講ずれば完全雇用が達成維持できるとしても、そこでの調整メカニズムは自力で完全雇用を実現できるワルラス経済のそれとは、おのずから内在的性質を異にしているはずである。そこには完全雇用均衡の自動的な実現を妨げ、そうではない均衡に経済を落ち着かせてしまうような違った内在的メカニズムが働いているのではないだろうか。」 以上は、ケインズ学会編『ケインズは今なぜ必要が』に収録されている福岡正夫先生の講演の一部である。先生は卒寿を迎えなんとして、なお、こうした明晰な話をされているわけであり、筆者なんぞは、まだまだ洟垂れ小僧というところである。それでも、ケインズ経済学の核心は、先生がアローのサミュエルソンに対する批評を引きつつ明