ある国は、人口の半分がフルート奏者だった。どんな家業でも商売繁盛を祈って自前の礼拝堂で演奏する風習があるのだ。 1人の、フルート奏者になりたての青年がいた。懸命に自分の演奏を気に入ってくれる店を探していたが、なかなか見つからない。 何件目かでやっと青年は、自分の演奏を気に入ってくれた花屋を見つけた。しかし、そこの主人は言った。 「うちで雇ってやる代わりに、お前はもう他の誰の前でも演奏してはいけない。わたしの前だけで演奏するんだ」 青年は、雇ってもらえるうれしさもあり、その契約を承諾した。この国ではそういう契約形態も多いのだ。 それから青年は、演奏を花屋の礼拝堂だけで行う日々を過ごし、それなりに満足していた。 いちどお客さんに「うちでも演奏してくれよ」と言われ曖昧に返事しているところを見られて主人にこっぴどく叱られた以外は、おおむね順調な日々だった。 何年か経ち、青年が散歩に出かけていると、