82年のときを隔てて抱擁を交わしたベティ・グレベンシコフ(右)とアナ・マリーア・ヴァレンバーグ Photo: Courtesy of Betty Grebenschikoff ドイツにいた親友は死んでしまった──82年ものあいだ、ベティ・グレベンシコフはそう思っていた。ところが先日、その親友が生身の姿で、米国フロリダ州セントピーターズバーグにあるホテルの一室に立っていたのだ。 グレベンシコフがアナ・マリーア・ヴァレンバーグと最後に会ったのは1939年の春だった。当時9歳だったふたりは、ベルリンの校庭で涙ながらに抱擁を交わした。 それからほどなく、それぞれの家族はナチスの手を逃れてドイツを後にせざるをえなくなる。第二次世界大戦の勃発前夜のことだった。 ふたりともこれが最後の抱擁になるだろうと思っていた。だが、2021年11月5日、80年以上ものときを隔てて、91歳になったふたりは再び抱擁を交