密航業者を頼り、アフリカ大陸からボートでヨーロッパを目指す移民たち。生きて辿り着ける者もいれば、そうはいかなかった者たちもいる──。ジブラルタル海峡や地中海で船が沈没し、死亡した人たちの遺体は海を漂い、スペイン南部アンダルシア地方の海岸に打ち上げられる。そしてそこには、ほとんどが「身元不明」状態の遺体を回収し、わずかな手がかりから身元を突き止め、遺族の元に帰す人がいる。 浜に打ち上げられた男性の名前を知る者はいなかった。男性の遺体は何週間も海を漂流した後、夏の間中、身元不明のままスペインの遺体安置所の冷蔵室に横たわっていた。 2021年、スペイン海域で溺死した移民の数は記録的なものになった。この男性もまた、犠牲になった数千人のうちの1人だ。もしマルティン・サモラ(61)がこの男性にも名前があり、人生があることを示す手がかりに気づいていなければ、彼は他の身元不明の遺体とともに墓標のない墓に埋