山崎裕太とその妻は10年前、九州から東京へ移住した。大都市の仕事の条件の良さに惹かれたからだ。現在、ジェラート専門店を経営する山崎と、保育士として働く妻には10歳、8歳、6歳の3人の男の子がいる。2人はもっと広い家を物色中だが、遠方へ引っ越すつもりはない。3部屋の寝室付きで手頃な賃貸物件が近所に必ずあると確信している。 米国を含む先進諸国の大都市圏は、どこも住宅価格の高騰に見舞われている。経済活動が最も活発で、最良の待遇の仕事が用意されているにもかかわらず、人々が早々に見切りをつけて去っていく光景はいまや珍しくない。高すぎて暮らせないのだ。繁栄する都市のプライベートクラブ化はますます進行し、ただでさえ数が限られている住宅が最高値入札者の手に渡っている。 だが東京はそうではない。 この半世紀、東京は交通機関への投資と開発促進策によって、ニューヨークの総戸数を上回る規模で住宅を供給し続けてきた