近年、自殺補助を法制化する国が増えてきており「死」を取り巻く状況に変化が現れはじめた。その一方で、こうした動きを懸念し、強く反対する声もあがる。 本特集では、死を望む患者のルポから医師の告白、反対派の主張、そして安楽死を取り巻く現状の解説まで掲載し、多角的な視点から今一度「死」について考えてみたい。 私たちに「生きる権利」があるならば、それと同様に「死ぬ権利」もあるのだろうか?
2021年4月、自殺幇助を合法化する法案がフランス議会で審議されたことを受け、公の場ではめったに発言しないフランス人著名作家のミシェル・ウエルベックが口を開いた。結果的に議決にはいたらず審議期限を迎えたこの「安楽死法案」だが、ウエルベックは仏「フィガロ」紙に寄稿し、激しい反対意見を述べている。 命題その1:誰も死にたくはない 多くの人は、生命が完全に失われてしまうよりは、弱っていてもあった方が良いと思うものです。ちょっとした楽しみくらいは残っていますから。生命というものは、いずれにしても「弱っていく過程」と言えるのかもしれません。それに、ちょっとした楽しみ以外の楽しみなど、そもそもあるでしょうか(これは掘り下げて考えてみるべき問題でしょう)。 命題その2:誰も苦しみたくはない これは肉体的な苦しみの話です。精神的な苦しみには魅力があり、美的な素材にもなり得ます。こうした苦しみを奪おうという
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