マダムの寝室の床が小気味良くきしむ。あるドイツ人観光客は天蓋つきベッドに魅了され、亡霊がいまだに徘徊しているかのように、つま先立ちで部屋を巡る──。 「マダム」というのは、ティエリー・ド・ヴィル・ダヴレー夫人、フランス革命直前の王室家具保管所所長の妻である。彼女はパリ、コンコルド広場のオテル・ド・ラ・マリーヌに住んでいた。長い修復工事を経て、2021年7月に再オープンしたその邸宅を訪れる者たちは、改装されたサロンを歩きながら、豊かな布装飾と重厚なカーテンに目を奪われる。 そこで呼び覚まされる感覚は視覚だけではない。その寝室には、かすかに花の香りが漂う。ふり撒かれた香水によって、訪問者は18世紀の雰囲気にどっぷりと浸かるのである。 「当時の言い方を借りれば、『はっきりもくっきりもしていない』、そんな存在、香りを再現しようとしました」。香水ブランド、オドゥール・ド・サントゥテの調香師であり「嗅