数年前、巨大テック企業のエンジニアたちは、カメラで捉えた相手の顔を認識し、名前を表示するツールを開発した。だが、かのシリコンバレーもそのときばかりは、素早く実用化して環境を変えることをしなかった。 それからしばらく経ったいま、大企業の支配を受けないスタートアップが、その技術を世に出そうとしている。この状況は、技術をどう活用するかという倫理的な議論や法規制が必要であることを浮き彫りにする。 すでに完成されていた技術 2017年初頭のある日の午後のことだ。カリフォルニア州メンロパークにあるフェイスブック本社の会議室で、エンジニアのトマー・レイヴァンドは、野球帽の端にスマートフォンをくっつけた状態で座っていた。そのスマートフォンは、ゴムバンドによってカメラを外に向けた状態でしっかり固定されていた。 このばかげた帽子フォンは、きわめて不格好だったが、未来の青写真であり、そこにはごく一部の社員しか知