「完璧じゃない」なんてレベルじゃない! 20年前、私が大学で若い講師として19世紀アメリカ文学を教えていたときのことだ。私はこの時代の作品が大好きなのだが、学生のほうはそうでもなかった。ハーマン・メルヴィルの『白鯨』やラルフ・ウォルドー・エマソンの『論文集』を数ページ読んで投げ出してしまい、あとはゼミで黙りこくり、どうか当てられませんようにと念ずる学生が大半だといってよかった。 ロイはそういった学生ではなかった。読書家として並外れており、授業の課題テキストについても意欲的に発言した。ロイを見る周囲の学生のまなざしは当惑と尊敬の入り混じったものだった。学期末は、手間暇かけずに上手に書きあげられてはいるものの、見所が徹頭徹尾ないレポートが次から次へと提出される時期だ。ところが提出期限の2日前、ロイが私の研究室を訪れ、期限を延ばしてほしいと頼み込んだ。 私はロイに説明した。医者の診断書があれば期