将棋界の「レジェンド」といえば、この人をおいて他にいない。史上最年少の十四歳でプロ入りして六十年余、加藤一二三(ひふみ)・九段(75)が積み上げた白星は千三百二十、黒星は千百三十九に上る。どちらも現役最多だ。その間、不戦敗は一度もない。内藤国雄九段(75)の引退でこの春、現役最年長棋士になった。東京・千駄ケ谷の将棋会館に巨体を揺らして現れると、将棋盤を前に猛烈な勢いで話し始めた。 「これは一九八二年、中原さん(誠・十六世名人)から名人を奪取した将棋です。かれこれ百回は並べて研究しています。でも一年前、『こう指されたら私が必敗だった』という手を見つけたんです」。そう言って、目で追えないほどの速さで駒を進めていく。 「これが二日目の夜、五時四十分の局面。この後、中原さんに好手があった」と銀を打ち付ける。「三十年以上たって気づき、がくぜんとしました。二人とも間違えていたから、私は名人になれたんで