ぎょしゃ座。それは冬から春にかけて、北の夜空に見える五角形の星座である(右)。最も明るい星は「カペラ」(Capella)で、その脇に小さく輝く「イプシロン」(Epsilon)という星がある。暗い空なら肉眼でも普通に見える恒星だ。 このイプシロンが、非常に興味深い。その不可解な振る舞いは恒星を研究する学者たちを1世紀以上悩ませ、説明のためにその時代の最先端の天体モデルが動員されたのである。 ここでは、その摩訶不思議な「ぎょしゃ座イプシロン」を眺めてみることにしよう。 変光の発見とその奇抜さ ぎょしゃ座イプシロンは、光度を変化させる変光星である。その変光を初めて認識したのはドイツのフリッチという名の牧師で、1821年のことだった。この年2月20日の観測メモに残された記録、「ぎょしゃ座のイプシロンがしばしばζ(ゼータ)やη(イータ)よりも暗く見える。誰かこれを観測した人はいますか。」、これが最古