わが国が世界に誇るべき文学が和歌であり、最大の文化遺産の一つが万葉集である。 万葉集は天皇から庶民まであらゆる階層の人々の和歌4500余首をのせる。これほど多くの人々の歌の一大集成は世界になく、世界最古、最大の歌集である。 この万葉集に日本人が太古より伝えてきた信仰、思想、心情、生き方が表現されている。万葉の和歌を知ることは日本と日本人を知ることになる。万葉の歌は時代を超えて今日の私たちの心に強く響き、同じ日本人としての一体感をしみじみと感ずることができる。数多い名歌の中で筆者の好きな歌をいくつか掲げ本講座の結びとしたい。 《御民(みたみ)われ生ける験(しるし)あり天地(あめつち)の栄ゆる時にあへらく思へば》(天地が栄える聖武天皇の御代に生まれ合わせた喜びを歌った) 《今日よりは顧(かへり)みなくて大君(おほきみ)の醜(しこ)の御楯(みたて)と出(い)で立つわれは》(今日からは何も顧みずわ