「ちょっと便所に行ってくるでのう」 昭和25年、広島市民球場ではそんな合言葉があった。合言葉の主は税務官。球場に税務官とは場違いな感じがするが、実は当時は入場者のチェックのために、税務署が球場に担当者を派遣していた。 球場の入り口は一カ所。担当官が入場券の半券を回収していた。入場料には税金が含まれているからである。通常は一人が回収、一人が休憩するのだが、ある時間になると二人揃っていなくなる。冒頭のセリフを残して、である。 それを確かめると球団職員が半券の一部を抜き取る。入場者数を実際より少なくするためである。戻ってきた担当者は半券が少なくなっているのには当然気が付く。それでも見て見ぬふりをする。球団の収入を少しでも増やしてやろうという親心からである。それほど球団創立当時の広島はカネがなかった。 もっとも一度はあまりにたくさん抜き過ぎて、 「さすがに今回はちょっとひどすぎますのう」 と言われ