在宅の仕事でアイデアに詰まり、気分転換を兼ねて散歩に出た。 「いい月夜ですね」 といって、ハヤさんもついてくる。 中天にかかる月は明るく、私は額のあたりに、ひんやりと澄んだ光を感じながら歩いた。 「なんとなく、頭が冴えてきたような気がする」 「それはよかった。月には神秘的な力がありますからね。そういえば、僕が寸一だったころ──」 ハヤさんが、行者として生きていた前世の記憶を語り始める。 △ ▲ △ ▲ △ 山朽家は何代も続いた長者の家だったが、主の留守中に、家人と使用人が毒茸にあたり、ほとんど全ての者が亡くなった。難を逃れたのは、外へ遊びに出て気をとられ、昼飯を忘れた末の娘ただひとりだった。 主は屋敷を閉め、生き残りの娘を連れて出て行ったきり、十数年戻らずにいる。 長者屋敷の広大な庭の奥には「月見ヶ池」という池があった。 漆を塗ったような水面に映る月影は、本物の月もかくやと輝き、折に触れ月