ボスニアのスラヴ系イスラーム教徒。その存在は,ユーゴスラヴィア解体に伴う内戦で知られることになった。けれども当然ながら,内戦より前には,彼らは正教徒やカトリック教徒とともに生きていたのであり,そこには「民族」あるいは「宗教」という違いはありながら,そしてその違いを意識しながらも,同じ共同体で暮らすという営みが存在した。本書,トネ・ブリンガ『ボスニア流にムスリムであること――ある中央ボスニアの村落におけるアイデンティティと共同体』(プリンストン大学出版会,1995年)は,そのような「戦前」のボスニア社会に暮らしたノルウェー人人類学者による民族誌である。Being Muslim the Bosnian Way: Identity and Community in a Central Bosnian Village (Princeton Studies in Muslim Politics)作者