『帝国の慰安婦』は41ページで森崎和江の『からゆきさん』(朝日新聞社、1976年)から次のような引用を行っている。傍点を下線に改めた。 女たちは野戦郵便局から日々ふるさとへ送金した。送られる金は、はじめのうちは一人一日百円以下は少なくて、四、五百円のものもいるというぐあいだったが、やがて国内の娼妓と同じ苦境におちいった。女たちの数がますますふえていったためである。これらの店にあがることもできない兵士や労働者たちを客とする私娼窟もふえた。(森崎、一五五頁) この引用の第一の問題点は、引用文中にある傍点(ここでは下線)が森崎の原文には存在しない、ということである。傍点が引用者によるものだという断り書きもない。『帝国の慰安婦』には千田夏光の著作からの引用に際しても無断で傍点を付した箇所が複数ある。いずれも、研究者にあるまじきルール違反である(注1)(注2)。 しかし問題点はそれだけではない。著者