従軍慰安婦問題に限らず、人身売買をあつかった書物には、必ずと言っていいほど「前借金」という言葉が登場する。日本弁護士連合会が1974年に出した『売春と前借金』(1974年)(高千穂書房)は、その前借金契約に焦点をあてて、売春問題について書いたものだ。前借金については、過去の判例や、その法律的意義だけでなく、当時、前借金によってどのように売春が強要されていたかつまびらかにしている。当時の日本弁護士連合会は、返還前の沖縄に調査団を派遣するなど、沖縄の人権状況に関心があったため、沖縄における売春と前借金問題にページを割いている。 本書を読んで分かるのは、前借金というものは、「借金」といいつつ、通常の金銭消費貸借とは、異なるということだ。前借金は売買された人身の代金であり、売られた人間に、その人権を著しく阻害する労務を提供させ、逃亡や廃業を阻害する心理的な力として作用するものだ。通常の金銭消費貸借